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その夜は温泉のせいかぐっすりと眠れた。
結婚が決まった頃からあまり眠れてはいなかった。
イライラしながら結婚式の準備ををしていた頃父がメイの展覧会に足を運んだと聞いた。
腹が立った。
父に・・
母に・・
幸彦に・・
メイに・・
そして自分に・・
何もかもメイが自分から奪っていったように思っていた。
思い切ってメイを島に訪ねた。
何がしたかった訳じや無かった。
只、メイが今どんな生き方をしているのか見てみたかった。
父の申しでも断り、こんな遠くの島にわざわざ暮らしてるのかが解らなかった。
幸彦に死なれたくせに、子供だって小さいくせに、
少しは有名な画家になったんなら、もっと便利な所に住みなさいよ・・
そう思った。
本当は幸彦が好きだった・・
初めは『父の隠し子には負けない』そう思って幸彦に近づいた。
でも何度も会ううちに彼に心が動いた。
自分の顔を見つめる時の優しい目が好きだった。
一緒に歩いているとさり気無く周りから守ってくれる。
雨が降ると自分の肩が濡れるくらい傘を此方に傾けて、
車が横を通ると自然に私の身体を自分の方に引き寄せてくれた。
でもあの日それはすべて自分の為では無かったと知らされた。
彼が自分にしてくれたすべてはあの『父の隠し子』へのものだった。
しかもその事に腹を立て自分が悔し紛れに言ったひと言で、彼は自分の前からいなくなった・・
腹立ちが収まり彼に誤ろうと彼を訪ねた時には、彼はもうアメリカを離れ行方さえ分らなかった。
そして彼を無くして初めて自分の愚かさを知った。
アメリカから戻り彼の行方を知った時は思わずメイに会おうと彼女の家の前まで足を運んだ・・
でもその時はどうしてもその家に入る事が出来なかった。
幸彦が神父になったと知ったからだ・・
自分のひと言であの人は愛する人を諦め聖職者の道を選んだ・・
それほどに愛された女を見る為に態々来た自分が惨めに思えた。
其れからは言い寄る男達を遠ざけ父の秘書の真似事をして過してきた。
そして2年前、彼が癌で他界したと知った。
偶々父の秘書をしている神田祐二の父が長崎の県議をしていて、その伝で幸彦の事が分かったのだった。
彼は神父でありながら医師という珍しい経歴で、しかもこの何十年も一人の神父が守り抜いた小さな過疎の島の為尽した有名な人になっていた。
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