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春が過ぎ、夏が過ぎた。
繭の肖像画を荷造り宅急便で送る。
何日か前に繭の結婚写真が郵便受けに届いていた。
来週には博信が彼女を連れて遊びに来るとメールが届いた。
幸哉ももう直2歳になる・・
あんなにおデブだったのに、運動量が増えたせいかこの頃は細くなった気がする。
メイは相変わらず、島のおばちやん達に揉まれながら、子育てに画家の仕事にと忙しく過ごしていた。
居間の電話がなる。
「はい・・」
「やあ、ミズメイ、お元気でしたか?」
電話はフィレンチェのミカエル圭司司教からだった。
長年心臓病の療養中だったエンリコ神父が亡くなったとの知らせと、身寄りのない彼が、この島に眠る幸彦の傍で眠りたいとの遺言を遺していたとの事だった。
ついては、メイにもその事に同意して欲しいと言ってきたのだ。
エンリコ神父の事は幸彦から聞いていた。
まるで父のような方だと懐かしげに目を細めた彼を思い出す。
此方に異存はないと答えた。
翌月のよく晴れた日曜日、島にミカエル圭司司教が来られた。
ヨーロッパでは普通土葬なのだが、エンリコ神父には日本で眠る為に火葬の手続きが取られた。
小さな骨壺に納められたエンリコ神父を連れて、親友の司教がメイの家に訪れた。
「ミズメイ、見違えるところでした。
あの時は、まるで死人のような顔をしていましたからね」
司教はメイを見ると、からかうようにそう言った。
「あの・・
あっ、貴方はあの時の・・」
「やっと思い出しましたか?
う~ん僕も歳を取りましたからね・・
それにこの数年、大切な弟子や親友に先立たれ、余計に老け込みました」
メイが出した日本茶を美味しそうに飲みながら司教は感慨深げにメイを見つめた。
「この子が幸哉君かな?」
メイの腕の中の幸哉を見る。
「本当にヨハネ幸彦によく似ている・・」
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