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「それで、私は何を・・」
「ああ、話が回りくどくなりましたね・・
貴女には幸彦の墓の移転の許可と、其まではエンリコの遺骨を幸彦の墓の中に同居させてやっていただく事をお願いしたいのです。
勿論、エンリコの墓と幸彦の新しい墓は今回僕が教会の聖職者用の墓地に並べて建てさせて貰います。
でもそれではせっかく眠っている幸彦の魂を起こす事になるやも知れないのですが・・」
「構いませんよ・・
幸彦はどうせあのお墓の中で大人しく眠っている人では有りませんから・・
あの人は今も島の人達の為に一日中動き廻り、悲しそうな人や淋しそうな人がいると私に知らせに来るんです。
彼が来た後私はその方を訪ねます。
幸哉を抱いて・・
私は医者でも神父でもないので、相手の家に伺っても長々と話をするか聞くだけです。
それでも何日か続けるとその方は元気になって、私や幸哉を訪ねこの家に来てくれます」
司教は驚いてメイの話を聞いた。
「それならなお彼の復籍を急がねば・・
死霊になってこの世をさ迷っていたら天国には入れなくなる・・」
メイは慌てる司教の顔を見て笑った。
「大丈夫です。
それに幸彦は聖職に戻ったとしてもこの島に留まると思います。
彼は私が逝くのを待っているんです・・
私が寿命を終えたら迎えに来ると約束しました。
生きているうちは約束を守れなかったから、これだけは守ると約束して亡くなったんです」
「まさか・・そんな事・・」
「嘘じゃないとよ・・
私の所にも神父先生はたんまに来るとです。
一人で辛い思いばしとると神父先生が庭に立っとった。
友達も同じ事言うとります・・
そして神父先生を見たら、少ししてメイさんが幸哉ちゃんを連れて遊びに来るとです。
みんな神父先生は今でん私らを守ってくれると言うとります」
由利子さんだった。
手にはカステラと漬け物を持っている。
「由利子さん、司教様におやつ?」
「なんにも無かばってん、エンリコ神父が好いとったけん・・」
そう言うとメイに手渡した。
「メイさん、いるとね」
玄じいだった。
手には大きな平目が下げられている。
「あら、玄さんも?」
「これエンリコ神父がうまかー言うとったけん・・」
「メイさん・・」
次々に島の人達がメイの家を訪ね、エンリコ神父や幸彦の好物を持ってきた。
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