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司教は其を見ると目を細めた。
「エンリコが羨ましい・・
僕がどんなにフィレンチェに戻る様に言っても、あいつはガンとして戻っては来なかった。
もしかして、先に本部付きになった僕に気を使ってかと思っていましたが・・
こんなに島の人達に慕われたなら戻りたい等とは思う訳が無かったんだ・・
幸彦も同じだったのでしょうね・・」
司教は笑いながら皆が持ってきた土産を口に運んだ。
そして少しの間、メイの描いた幸彦の絵を眺めて優しく微笑んだ。
それからメイと幸哉を伴って島の中を歩いた。
病床のエンリコを迎えに来た時に、彼と二人並んで歩いたように・・
そしてその夕方、島の人達に見送られ遠い国へと帰って行った。
見送るメイの横を風が吹き抜ける・・
今日からはあの風に乗った幸彦とエンリコ神父が、仲良く島の人達の顔を見て廻るのだとメイは思った。
それから同じく風が吹く遠い街で、両親や弟が、もう一人の父が、そして我儘でさみしがり屋の姉がそれぞれに色んな思いを胸に生きている・・
そう思った。
メイは今、今迄に無いほどの大作に取り掛かっていた。
「もう日本に帰る事も出来なくなるでしょう。
二人の墓に来る事も出来なくなる」
寂しそうに言われた司教の大司教への就任式が後一年に迫ったと知ったからだ。
三人が並んだ絵を描こう・・
そう思って筆をとった。
「メイさん、いるとね」
玄関に由利子の声がした。
エンリコ神父の顔が分からないと言ったメイに、幸彦とエンリコ神父が並んだ写真を届けてくれたのだ。
それはまだ、島に来だしたばかりの頃の幸彦の若い顔だった。
メイはその写真に司教の姿を添えさせた構図で絵を描く。
エンリコ神父と圭司司教の顔を少しだけ若くして・・
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