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抱きつかれた百瀬さんは、目を見開いたまま完全に石化している。だ、大丈夫かな?
「克哉……すまん」
涙する来海さんに代わって、陽ちゃんがなんとも言えない表情で詫びた。
* * *
翌朝、私たちが開店準備を始める頃、来海さんは鶴岡へ帰って行った。
「頑張って修業を積んで、こっちの本店に負けないくらい立派なお店にするからね!」
そう宣言した来海さんは、憑き物が落ちたように清々しい。キャリアが始まったばかりで大変だろうけど、彼女の明るい笑顔を見ていると、どんなこともやってのけそうなパワーを感じる。
みんなで見送ると、急発進した彼女の軽自動車は、早速、横道から出てきた車とぶつかりそうになり、周囲にはけたたましいクラクションの音が響いた。
「……あ。そういえば、車の運転についても注意してくれって、叔父さんに言われたんだった……」
陽ちゃんがハッと思い出したけど、時すでに遅し。来海さんの車は、商店街の直線を軽快に駆け抜けて行った。
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