見えない言葉

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「あぁ、やっぱりか。」 目に入ったのはいつも通りの古びた低い天井。 どうやら夢を見ていたらしい。 それは、今よりももっと狭くてボロボロの家に住んでいた頃の…昔の夢。 夢の中で私は、幼い頃飼っていた黒猫と再会した。 曲がった尻尾が特徴的で、目が悪く、あまり鳴くこともない、けれど自由に生きていた猫だった。 今思えば、あの貧しい生活の中、よく飼うことが出来たものだ。 当時携帯電話も持っておらず、カメラも使い捨てのものしか無かったからか、写真もほんの僅かにしか遺っていない。 あまりいい思い出が無かった私は昔の事の殆ど忘れてしまった。 ただ憶えているのは彼がいなくなる数日前、大人になってからはあまり来なくなった私の膝の上に、そっと乗ってきた事。 まるで別れを告げているようだった。 あの夕暮れ時は、今でも忘れられない。 夢の中で、彼は私の耳元に顔を近づけていた。 そこで、目は醒めてしまった。 それ以外の事は憶えていない。 何が、言いたかったのだろうか。 夢の中でも、そして、あの十数年前の最期にも。 ふと、私は壁に貼られた絵に目を向けた。 そこには私が描いた黒猫のイラストがある。 彼は、今も何処かで生きているのだろう。 もう、目には見えなくても。 忘れはしないよ。 君といたあのひと時、 確かに私は、幸せだったよ。
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