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拓未が何を言ったのか、一瞬理解出来なかった。
コノマチヲデル。
頭の中で何回か繰り返してやっと意味を理解する。
「この町を出るのか?どうして?家はどうするんだよ?」
言いたい事がうまく言えなくて、聞きたい事をまくし立ててしまう。
そんな俺を諭すように、拓未はゆっくりと話始める。
「そ、都市部で就職決まったからさ。家の工場はおじさん達が引き継いでるから、オレが継ぐ必要ないし。」
拓未の家は、小さな水産加工業を営んでいる。家は漁師だけど、うちの養殖した帆立なんかを卸してもいる。拓未の父さんは拓未が小学校2年生の時に病気で亡くなったけど、東南アジア出身の母さんとおじさん夫婦で切り盛りしているはずだった。
「何か母さんの実家も大変みたいで国に帰って来いって言われてるみたいでさ。オレが独り立ちすれば母さんもオレの事気にしないで国に帰れるし。」
俺の知らないところで、そんな事になっていたなんて。
驚き過ぎて呆然とする俺をみて、達観したような表情で拓未は話を続ける。
「お前はこの町で漁師を続ける。オレはこの町を出る。高校を卒業すれば、いつまでも同じままでは居られないってお前もわかってるはずだろ。」
真夏の暑さの中、カモメが数羽飛んで行くのが見えた。
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