洋人と拓未。

4/5
前へ
/42ページ
次へ
「オレは、この町に居場所がないんだ。母さんは国に帰るし、工事を継げるわけでもないし。自分の居場所を探すために、この町を出るんだ。」 拓未はずっと地平線の先を見つめている。地平線の先の未来まで見つめているような、どこか清々しさも感じる眼差しだった。 それを見て、俺は暑さも伴ってどんどんイライラしてくる。 「居場所って何だよ?勝手にひとりで将来決めてさ。俺たちこの町しか知らないのに出てどうするんだよ?」 まくし立てる俺と正反対に、拓未は落ち着いた様子で地平線を見ていた目線を俺に向ける。 「それを探しにこの町を出るんだよ。洋人、お前はさ、漁師を継がなきゃいけないんだろ?この町に居場所があって必要とされてるんだろ?そこがオレとの違いだ。ずっと一緒ではいられないんだ。」 そう言って笑いかける拓未の事を、俺は見ることが出来なかった。 遠くで鳴いてるアブラゼミの声が目の前の波音に消される事なく、響いている。 「そんなの、わかるわけない!」 俺はそう言い放って立ち上がると、拓未を置いて防波堤から走り出した。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加