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「オレは、この町に居場所がないんだ。母さんは国に帰るし、工事を継げるわけでもないし。自分の居場所を探すために、この町を出るんだ。」
拓未はずっと地平線の先を見つめている。地平線の先の未来まで見つめているような、どこか清々しさも感じる眼差しだった。
それを見て、俺は暑さも伴ってどんどんイライラしてくる。
「居場所って何だよ?勝手にひとりで将来決めてさ。俺たちこの町しか知らないのに出てどうするんだよ?」
まくし立てる俺と正反対に、拓未は落ち着いた様子で地平線を見ていた目線を俺に向ける。
「それを探しにこの町を出るんだよ。洋人、お前はさ、漁師を継がなきゃいけないんだろ?この町に居場所があって必要とされてるんだろ?そこがオレとの違いだ。ずっと一緒ではいられないんだ。」
そう言って笑いかける拓未の事を、俺は見ることが出来なかった。
遠くで鳴いてるアブラゼミの声が目の前の波音に消される事なく、響いている。
「そんなの、わかるわけない!」
俺はそう言い放って立ち上がると、拓未を置いて防波堤から走り出した。
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