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洋人が走り去った防波堤にひとり残された俺は、気が抜けた様に仰向けにアスファルトに横たわった。
波の音と、アブラゼミの声がこだましている。
真夏の日差しが眩しすぎて、俺は目を閉じたうえに手で顔を覆う。
確かに、幼馴染の洋人に対して相談もなしに都市部で就職を決めたのは悪かったとは思う。
この小さい町で、小中高校と同じ学校に通うしかなくてだいたい一緒に過ごしてきて、家族構成とか苦手なものとか、好きな女の子とか、お互いの事をおおよそ知ってる間柄だからこそ、言いにくい事もある。
洋人は3人兄弟の一番下だけど、上の兄さんたちがこの町を出ていったから必然的に実家の漁師の仕事を手伝っていた。
でもその事を洋人は当然だと思って手伝っているし、漁師を継ぐ事に何の疑問も抱いてはいないようだった。
洋人は必要とされていて、その居場所がきちんとある。
その事に対しての嫉妬がないと言えば嘘になる。
居場所がなくて、もがく自分。
同じ景色を見て、同じ空気を吸って生活していても、
こんなにも立場は違うのだ。
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