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 鈴ちゃんが生まれる少し前のことです。  鈴ちゃんのお母さんである琴(こと)さんは、ニャニャフィという名前の猫を飼っていました。  琴さんによくなついていたニャニャフィは、琴さんが結婚して実家を出るときも新しい環境で一緒に暮らすことになったのです。  数年後、琴さんは女の子を授かりました。  鈴ちゃんです。  鈴ちゃんは生まれたつきアレルギー体質が強く、犬や猫、鳥などを自宅で飼うことは避けるようにとお医者さんからはっきり言われてしまいました。  琴さんは3日3晩悩んで泣いて、近所に住む猫好きの親友・与実(あとみ)さんにニャニャフィを託すことを決心します。  与実さんも、琴さんと同じようにとても可愛がってくれましたが、このときすでに12歳だったニャニャフィは、それからさらに数年後、天寿を全うする日を迎えることになりました。  その瞬間は、泊り込みで与実さんの家に来ていた琴さんの腕の中でした。 「ごめんね、ニャニャフィ。初めて会ったときにずっと一緒だよって約束したのに。絶対ニャニャフィにさみしい思いはさせないって。なのに離れ離れになっちゃって、ほんとにごめんね、ごめんね」 ―――琴ちゃん、そんなに泣かないでほしいにゃ。こうやって最後に琴ちゃんの腕の中にいられるんにゃから、ボクはとっても幸せにゃ。それに、ボクの心はいつも琴ちゃんと一緒。今でも琴ちゃん家のサンサンテラスでのんびりしてるにゃ。  琴さんの大好きだったしっぽがとうとう動かなくなり、ニャニャフィは息を引き取りました。  琴さんはあふれる涙を拭きもせず泣き続けました。  掃除機への対抗心から、3倍に膨れ上がったしっぽ。  サンサンテラスでしっぽをぱたんぱたんと動かしながら外を眺める背中。  眠ってるはずなのに名前を呼ぶとしっぽだけで応えるその体たらく。  すべてニャニャフィが残してくれた大切な思い出です。
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