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「長い眠りから目覚めた気分はどうだ?」
「……猫、猫が喋ってる。これは夢だ。とりあえずもう一度眠ろう」
低く柔らかい声が午後の微睡んだ部屋に響いた。空気中に舞う埃が金の屑のように眩い光を反射させ、ささくれのある畳に静かに落ちていく。むくりとパンツひとつ身につけて起き上がった男は、再び眠たげに横になった。
肩まで届く艶やかな髪には寝癖がついている。ゆったりとした呼吸が胸を揺らしている。陽の光をしんと吸い込んだ瞳は薄く澄み、私を映す。
真っ黒な肢体を伸ばして猫然として座り、尻尾をくるりと前足に巻きつけ、爛々と翡翠の瞳を輝かせる私を。
やっと、やっと、あなたは目覚めた。
「寝るな!これは夢じゃない。新たな試練と呪いだよ」
とろんと閉じかけていた瞼が、ぴくりと震えて大きく開かれる。
「試練…と、呪い…?」
「あぁ、おまえは一度死にかけた。いや死んだ。でもまだ僅かな命のともしびが体内に残っていた。私はその灯が輝き、また消えるのを見届ける為にここにいる」
「猫が?」
「猫が、だよっ。猫で悪いかっ!?」
すいっと脇の下に大きな手を差し込まれ、体が宙に浮く。体の重みでつま先まで長く垂れ下がり、無防備な腹を晒しているのが心もとない。
目の位置を合わせるまで引き寄せられ、まんまるな瞳に間近で覗き込まれる。鶯の羽の色が混じる渋みのある茶の虹彩に、染みのように黒い猫が映っている。
あぁ、この人の瞳はこんな複雑な色をしていたんだ。
薄い耳、濡れた鼻、ぴんと張るひげ。その全てをじっくりと観察した後、何かを諦めたように私の体を組んだ足の上に落とした。もう構われないのかと思えば、喉元にぐりぐりと指を押し付けられる。
こんなことをされてはたまらない。もうひとつの手が毛並みを整えるように適度な圧をかけて背を撫でる。その手は包み込むように温かだった。
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