千の夜を越える猫

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「やっぱり普通の猫だな。ごろごろいってる」 「猫は気持ちいところを撫でられればごろごろ喉を鳴らすに決まってる!だから最初っから猫であることを否定してないだろ!」 「うぅん。俺の知ってる猫は喋らないんだよ。もしかして化け猫?」 あまりの失礼な言い草に呆れ果て、ひゅいっと膝から飛び降りた。天を仰ぐ細く長い尻尾をゆらゆら揺らし、気分を害したことを主張する。 「はっ!?…何とでも言え。私は猫でおまえの監視役でガイドだ。おまえは死ぬ前にやり残した課題に取り組まなければならない。ちゃんと向き合わない限り、一生そこから逃れられない」 こちらは真面目に喋っているのに、あぐらをかき相変わらずだらりとした姿勢で投げやりに視線を寄越してくる。 こんなあなたを見たくて何百年も彷徨って来たわけじゃないと、声を荒げそうになる。 「真面目に聞いてんのかっ?」 「って、猫に言われてもねぇ、現実味が。俺には全く身に覚えがないし。第一考えてみれば、やり残したこととか言われても以前の記憶が全くない」 「だから、そのガイドを勤めるのが私の役目だ。この新しい世に生きるおまえを助ける。私はおまえが再び光を見る時のために、移り変わる世界を見てきた」 「にゃぁ」 「だからっ、真剣に聞け」 「にゃあ、とかも言えんの?鳴いてみろよ。ほら、にゃぁん、にゃっ」 可愛らしい鳴き真似はすらりと整った男の顔に妙に馴染んでいて、怒りというより羞恥が湧いてくる。 「なっ、なんでおまえにそんなこと…」 この男はこんな男だったか?昔過ぎて忘れた。忘れてしまった? 一日たりとも、あなたが目覚めることを望まない日はなかったというのに。ひたすら、その瞳に私を映すのを待っていたというのに。何百年も。脇目もふらず。
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