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「だって…おまえの魂はもう生まれ変わることもなく、消える運命だったんだ。そんな…何も成さないで、何も欲しいものもなくて、心が震えるほどの喜びも知らず。消えてしまうなんて、そんな…」
「後悔してない。それが俺に与えられた運命だったんだよ」
「違う!おまえはまだ、それに抗おうとも、自分の意思で何かしようともしてないっ。だって最期、あんなに悲しい顔を見せたじゃないか!」
無くした記憶を探るように目を細め、正孝は考えている。
あの時、私たちは火と煙に巻かれていた。正孝の顔は炎に赤く照らされながら、今と同じように恐ろしく静かだった。全てを失い、何もかも諦めた目をしていた。
焦げた臭いと異変に早めに気づいたことが幸いし、使用人に到るまで避難を終えていた。外のざわめきに、屋敷に近く火消しの声が混じる。
その日は風邪をこじらせてあっけなく亡くなった妹君、静の葬儀を終えた後、酒の席が設けられていた。料理が載せられたお膳や酒が並ぶ誰もいない座敷で、正孝はひとり酒を飲んでいた。
火の粉が舞う中、何も見えていないかのように酒を手酌で継ぎ足し煽る。憂いに満ちた正孝の顔に、狂気を見た気がした。
静の死は私にも底知れない悲しみをもたらしていた。正孝はそれ以上のぞっとするような喪失感に占められていた。
「最後の瞬間、何かを変えたいと思っていたはずだ!命にともしびが残っていたのがその証拠だ!」
答えはない。いくら声をあげても、私の言葉が彼に響くことはなかった。彼の感情は温度も色も変えない。
私だけが過剰に興奮し、まんまるな目を怒りと哀しみに輝かせ、大きく見開いていた。落ちる涙を待っていた。
「夜が俺のために祈ってくれたんだな。ありがとう。ずっとひとりで寂しかったな」
ふさふさと針のように逆立った毛に触れられたことに驚き、私は四肢を突っ張って飛び上がった。鋭い爪が正孝の手の甲を掠り、ぷつりと吹き出した血で細く赤いラインが三本浮き上がった。
その手がそっと頬に当てられる。大き過ぎる手は私の顔ごと包みこむようになる。
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