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その声の主を、二人振り向いて確認する。
「く、黒猫!?」
道の端に、顔だけを此方に向けて、私達を見やるその黒猫は、一見で、ただの猫ではないと分かる、妖しい雰囲気を携えていた。
その、全身の黒は、色では言い表せない程。漆黒。闇。
近付けば、触れる事叶わずに、その世界へ堕ちていってしまいそうな気がして、私は少し怖くなった。
「あ、あの猫よ、願いを叶えてくれた猫」
そう百子が言った途端、黒猫は前を向き、小走りに、私達から離れていった。
「あ、待って」
百子がすかさず、追い掛ける。
「も、百子」
単に、独りになるのが心細くて、私も追い掛けた。
その時だった。
「きゃっ」
ビタンッ
地面の段差に蹴躓き、私は膝を擦りむいた。
「あいててて」
黒猫は徐々にスピードを上げ、曲がりくねった路地を進む。私は目で追うのがやっとだった。
すると突然、猫はひらりと踵を返し、左上の少し低い塀を飛び越え、民家の敷地内に入っていった。
遅ればせながら息を切らせて、その場にたどり着くも、黒猫の姿はもう無かった。
「ああ、見失ったか」
百子の、落胆したその言葉に、私は内心ホッとしていた。
錆だらけの大きな門の向こう、広い庭と、お屋敷が見える。
この場所には不釣り合いな、大きな敷地と建物。古くて薄汚れた洋館と手入れの成されていない庭。
ただ、不気味に思った。
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