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「空き家、なのかな」
そう言いながら、百子は大きな門に手を掛けると。
キイイイ、と門が開いた。
「ちょ、ちょっと、百子、止めなよ」
私は、百子がその門をくぐり、敷地内に立ち入るのを制止した。
でも、百子は。
「ダメよ、あの猫を見つけなくちゃ」
振り向きもせず、ボソッと言った。既に百子の体は敷地内、庭に入っていた。
「怒られるよ」
それならば、まだいい。空き家かもしれない。怒る人はいないかも。
だからこそ、怖かった。
すると、百子が踵を返し、私を指差して言った。
「さっきの猫、さっちゃんの前を横切ったわ」
私は驚いた。
それは、不吉のおまじない、黒猫の横切り、だ。
百子の指差した先に、私の擦りむいた膝があった。ヒリヒリとまだ痛む。
「ど、どうしよう」
堪らなく、不安感が襲う。これも、不吉のおまじない、のせいなのだろうか。
「…おまじない、は当たるわ」
百子が、自分の手のひらを見た後、天を仰いだ。
「あ、雨」
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