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「初めてまして、美しいお嬢さん。
マルクスのパンはこの街で1番美味いですよ。
お目が高い」
声までかけられて、顔に熱が集まってきたけれど、私はある事に気づいてしまった。
シルクハットの陰に覗く・・・鬚?
白くてフサフサの口許に、ピンクの唇は少し割れている?
まるで、猫みたいに。
「この街にようこそ」
紳士はシルクハットを取ってこちらを見た。
フサフサの毛に覆われた猫の頭の、金色の目としっかり目が合ってしまった。
毛も耳も長い。額から後頭部にかけては黒いけど、その他は白い。まるで色白の顔から黒い長髪が生えているようだ。金色の目はよく見ると糸のように細い瞳が走っている。
私はぽかんと口を開けて、まじまじと見つめてしまった。サンドイッチを食べるのをやめてしまったので、パンからトマトやらオムレツやらがゆっくりとこぼれ落ちていく。
慌てて拾って窓の外を見ると、猫頭の紳士はいなくなっていた。
あの人、いや、猫か。
いったい何だったのか。
まあいい。
このサンドイッチが街1番の美味しさだと発覚した以上、熱々のうちに食べることが最優先事項だ。
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