猫紳士と猫のしっぽ

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私がおずおずと聞くと、老婦人はフンと鼻を鳴らした。 「こんな小娘だったとはね、まあいいさ、 紹介状寄越しな」 ショルダーバッグから封筒を渡した。 地方の名士の叔父からってことにしてあるけど、便利屋を使って用意したものだからヒヤヒヤした。 老婦人は封筒を乱暴に開けて、首からぶら下げた老眼鏡を通して中身をちらりと見ただけだった。 ホッとしたけど、結構お金使ったのに。 「じゃあ、後は任せたよ」 老婦人は屋敷の中に戻ってしまった。 「え、あの、仕事は何を」 「ハウスキーパーのやることは1つだろう。 全部だよ」 え・・・この広いお屋敷の床掃除も、食器磨きも、お風呂を炊くのも・・・まさか、庭師くらいは雇って、いや、あの草だらけの庭を見たところまずない。 おまけに、屋敷に一歩入った途端、一斉に何かが部屋の奥に駆け出した。 多分キッチンであろうこの部屋の、机の下、収納の影、戸棚の上から、キラリと2つ並んだ目玉たちがこちらをじっと伺っている。 それがすべて、猫!猫!猫! 匂いの正体が分かった。 屋敷の中では、夥しい数の猫が放し飼いにされていたのだ。 全部って、猫たちの世話もってこと? 私は目眩がした。
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