猫紳士と猫のしっぽ

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無理、割に合わない。 行くところなんてないけど、ここよりはましだろう。 勝手口から出て行こうとした矢先、聞き覚えのある声が私を引き止めた。 「やあ、昨日のお嬢さん。サンドイッチは美味かっただろう」 振り返ると、ボロボロの家具や絨毯やそこら中に転がる空き箱や空き缶に彩られたキッチンに不釣り合いな、仕立ての良いスーツを着た紳士が立っていた。 昨日の紳士に違いない。長毛種の猫の頭を持つ紳士なんて2人といない。 「貴方、ここに住んでいるの?」 「ああ。私はベル・パーシー女史に飼われている猫だよ」 私はまた目眩が起きそうだった。 格好が身なりのいい紳士なだけに、飼われている、という言葉に強烈な違和感と微かな背徳感を感じる。 「そう」 としか返事できなかった。 「お嬢さんはなぜここに?」 「ハウスキーパーとして働きに来たの」
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