第1章

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「ある時ね、バスを待っていたらあの人がいつものように交差点の向こう側に来たの。そうしたら、そのまましゃがんで見えなくなっちゃったの。どうしたのかと思っていたらバスが来ちゃって、私本当にドキドキハラハラしてたのね。そうしたら信号が変わってあの人が何かを抱えて走って来たの。横断歩道を渡りきって、またしゃがんだから具合が悪いのかと思ったら、子猫を抱えていたの。ちょうどお前みたいな三毛猫。その子を下ろして、気をつけて帰るんだぞって言ってた。子猫が道路を渡ろうとしてたのを、危ないから連れてきてあげてたの。そのね、気をつけてって子猫に言っていた声がね、ちょっと低くてものすごく優しい声だったの。前から気になってはいたんだけれど、その時にこの人素敵だなって、好きだなって思ったの。猫好きに悪い人はいないものね」 彼女ははにかんだように、少し頬を染ながら笑った。 そうか。 あいつ、子猫を助けたんだ。 そっか。
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