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「俺が様子を見てきます。ここで待っていてください」
「…ああ。気を付けろよ」
神が秘密裏に作っていたであろう、地下へ続く隠し通路を抜けると、分厚い扉があった。
扉を開けると、そこには無数の死体。
殺されたばかりなのか、死臭はなく、血なまぐさい臭いだけが充満していた。
地下室の奥には鉄格子があり、中には綺麗な畳が敷かれている。畳の奥は襖(ふすま)で仕切られていて、何があるかは分からない。
鉄格子は何本か壊れ、牢の役目は果たせていなかった。
もし自分が牢の住人だとしたら、すぐに逃げ出したくなるはずの悲惨な光景が広がっているというのに。
…それなのに。
「ああ。やっと来たんだね。待ちくたびれたよ…。早く、それを片付けてくれない?」
その牢の住人は、俺を見てそう言った。
美しく、煌びやかで、妖艶で、優雅で、儚げで、哀愁もあって、自分でも分からなくなるほど…不思議な印象。
死体から剥ぎ取ったのか、軍服を着て、その上から着物を羽織る酔狂な格好をしていた。
金の髪と瞳は、この部屋にある小さな小窓から差す光によって輝き、神秘的にも見える。
この光景でも物怖じしない神は、俺を見て口を開いた。
「君の大将はいつ来るの?」
「すぐ近くで仲間と一緒に待機しています。…あなたは、ここで何を」
きっと、この殺戮の犯人に違いない。
そう確信して、時間稼ぎをするつもりだった。大将に伝える時間を稼ぐ為に。他の仲間がいることを伝え、下手に動けないように。話の分かる人間だとも思わせたくて。
だけど…。牢の住人は俺の頭上を数秒見ると、少し口角を上げた。
とても嬉しそうに、美しく。
「君が死んだら…八雲は悲しむかなぁ」
「それは、どういう…」
そこからは、何が起こったのかは分からない。
とんでもない恐怖があったことだけは分かった。 その後は…地に体が打ち付けられる感覚がして。
不思議と痛みは無かったが、最後に見たのは…流れていく…大量の血。
これは…俺の?
薄れゆく意識の中、何を考える事も出来ず。
きっと俺はこのまま死んでいくんだろうと、どこか他人事に思いながら_____。
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