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隣同士の国は支え合いながらも一線は引き、ちょうど良い距離感を保っているのが常となっている。対して高天原を挟んだ向いの国同士は、あまり外交が無い。 高天原を越えて一直線に行けば早いが、避けるように迂回せなばならない為、深い交流は無いのだ。 高天原が滅び、隣国が隣国を見張る関係は…今度は土地を奪わせないという意識から復活した。 神がその地を選んだだけはある。高天原は敵に襲われても土地の構造上、迎撃しやすい場所にあったから。 「なぁ、どこ向かってるん」 「西国の倭国から逃げるなら、東国の葦原(あしはら)へ行くべきだと思ってな」 幸い高天原から抜けるには、どの国も近くて良い。倭国の最高権力者と言っても過言ではない総帥から逃げるなら、あの人の権力が届かない場所へ。 隣国には多くの知人が居るようだったし、葦原ならまだ逃げやすいだろう。 「葦原って…八雲の故郷ちゃうかったか?」 「ああ」 「ええんか…?」 「問題ない」 バックミラー越しに、未だ心配そうに俺を見る幸太郎から目を逸らした。 故郷に帰るのは何年ぶりだろうか。家族の顔を思い出そうにも、ぼやけてしまう。 会えば分かるかもしれないが…家族が俺の事を分からないかもしれない。大人になっただけではなく、神になってしまったから。 「故郷か…いい響きだね」 風に髪をなびかせ、優しい顔で微笑む朧に、俺は返事をしなかった。 俺にとっては、そんな良いものではなかったから。 「あまり寝てないだろ。少しでも多く寝ておけ。景色なら、いつでも見せてやるから」 「…そう。分かったよ」 初めて素直に言うことを聞いた事に驚きつつも、そっと目を閉じた朧を邪魔しまいと静かに運転を続けた。 高天原は奥に進むにつれ森が深くなっていき、車の侵入がギリギリの道も多数あった。それを小一時間ほど抜けていくと、今度は木々が少なくなっていく。 遠くに建物が見えるようになってくると、国境を越えたことを認識した。 懐かしくありながらも、俺の知る葦原とは変わっている景色に、時代の流れを感じながら。
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