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目覚めるとそこは、(おぼろ)の知らないもので溢れていた。 「わぁ…すごい…!」 木造住宅が所狭しと並び、一本の大通りを作っている。その先には遠くからでも分かる巨大な城が建っていて、城までの道のりを華やかに飾るように人々が行き交っていた。 木造住宅は全て道を挟むように露店になっていて、人々の楽しそうな声に加え店員が勧誘する声が明るい街を作っている。 「俺から離れるなよ。迷子になる」 「ねぇ!あれは何だい!?」 大通りの裏手に停めた車から降り、声に引かれるように走り出した朧を追いかけるように八雲(やくも)が走ってきた。 それでも聞く耳を持たず走り出そうとする朧の襟首を掴んで引き止める。 「凄いよ八雲!こんなに人がいるのも、お店も初めて見る!お店なんて、辞典の文字でしか見たことなかったのに!」 「分かったから落ち着け」 「お金で物と交換するんだよね?凄いなぁ…。ねえ八雲、僕も何か買ってみたい」 キラキラした笑顔で八雲を見つめる朧。八雲は数秒無言で見つめ返すと、諦めたように一つの店に入っていった。 朧が飛び跳ねる勢いで後を着いていくと、そこは呉服屋。 「軍服は目立つから、ここで捨てていく」 「服…!たくさんある!」 予め上だけは脱いでいた。上はTシャツ、ズボンはそのまま。八雲は部下達にも他の店で服を買ってくるよう伝え、団体での行動を避けた。 軍服といっても下だけならさほど目立たない。それに葦原は世界で唯一、神と人間の格差無く共存している国でもあった為、朧と八雲の容姿も目立たない。 これが八雲の優しさだと気付くのは、朧が街に馴染むようになって暫く経ってからの事になる。
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