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その日、Y氏は部屋で一人苛立ちを募らせていた。
「X氏はいつまで待たせるつもりだ」
酒を煽りながら、Y氏は部屋に飾らされたカレンダーに目をやる。カレンダーの日付、今日と言う日に×印が書かれていた。もっとも、それは、今日に限ったことではない。先月、先々月のカレンダーも同じ日に×印が書かれてある。
これはいうところの、返済期限である。Y氏のではない。X氏に対しての返済期限だ。Y氏は一年も前にX氏に頼まれて何百万という金を貸し付けた。元々、乗り気ではなかった。X氏は借金をあちこちにつくり、それをほとんど返さないでいるような人物。本来なら、金など貸してやる必要はなかったのだが、小学校自体からのよしみで金を貸すことにした。もちろん、ただ貸すだけではなくX氏がはまっているギャンブルから手を引くことを条件にした上で。
しかし、X氏は一向にギャンブルから手を引こうとはしなかった。Y氏が貸したお金も全てギャンブルにつぎ込み、日銭を僅かに得た程度だった。それでも、Y氏は辛抱強くX氏が心を入れ替えるのを待っていた。いつか、目を覚ましてくれるだろうと信じて。だが、その期待は叶いそうにない。彼は未だに遊び惚けていた。
Y氏は思い立ち先月、X氏宛に手紙を書いた。色々と言ってやりたいことはあったが、彼が理由をつけられると困るので、手紙の内容は簡潔にして。
『----前略。
X氏。私が貸した金を、来月までに返すように。
後略。 Y氏より』
それ以上の言葉はいらない。あえて、冷たくあしらうことで彼が目を覚ましてくれたら、それでいい。
最後の頼りであるY氏も見限っていることを自覚さいしてくれたら。
あれから一ヶ月、X氏から連絡はこない。Y氏は苛立つ気持ちを酒で紛らわしながら連絡がくるのを今か、今かと待ちかまえている。
電話の一本さえ入ってこない。
やはり、自分が直接、X氏のところに乗り込む必要が。そう、Y氏が思い立った時のこと、コトリと玄関先の郵便受けに何かが落ちる音がした。
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