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レイフはキッチンでミネストローネを作っていた。
トマトのいい香りが家中に広がっている。
玄関のカギが開く音が響き、それがドンドンと扉を叩く音に変わった。
「レイフ!」
居候のマックスの声だ。
レイフは急いで玄関に行くと、内鍵を開けた。
「あ、いい臭い」
マックスはリビングに進むと、真っ先にネクタイを外してソファーに放り投げた。
そしてそのままキッチンに行った。
「うわぁ、うまそう!」
レイフは、鍋を覗き込むマックスの背後で腕組をし、立ちつくした。
「お前に言いたいことがある」
振り向いたマックスはニコニコしている。
「何?」
レイフは、今、多分不機嫌だ。
「何だよ」
「今日、家中掃除をしたんだ」
「そう」
マックスは冷蔵庫からコーラを出すと、グラスに注いだ。
「お前のあの部屋は何なんだ」
「あれ?俺の部屋も掃除してくれたのか?」
「するわけ無いだろう?どうやってあの大量の衣類を俺一人で片づけろって言うんだ」
マックスの部屋は、とんでもないことになっていた。
ベッドの上には衣類が山積みになり、クローゼットの中はほとんど空だ。机の上は食べ散らかしたお菓子のパッケージがてんこ盛り、絨毯の上には大量の靴やバッグが転がり、ソファーの上にはタオルや下着までもが丸めて置いてあった。
とにかく、扉を開けた瞬間、また閉めてしまった。
「掃除をしろ」
「だって、ついこの前まで杖をついてたのに、できるわけないだろう」
マックスは数カ月前に足を骨折して、最近ようやくギブスから解放されたばかりだ。
「…分かった、じゃあ、明日掃除しよう。手伝ってやるから」
一人では絶対無理だ。
「明日は無理。芸能プロダクションに挨拶に行くことになったんだ。芸能プロダクションって言っても、芸能人には一人も会えないんだってさ」
マックスは上目使いにレイフを見つめ、コーラを一口飲んだ。
「あ、それよりさ、30日、暇?」
突然の言葉に、レイフの心拍数が一気に上がった。
マックスの誕生日だ。
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