第2章

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 レイフはシムに連れられて、ホテルで開催されているワインの試飲会に出かけていた。 シムはレイフが経営しているイタリアンレストラン、シエロステラートの店長で、レイフの幼馴染だ。 シムが、クリスマスに向けて、「冬のディナー」に合うワインを探したいと言って、レイフを連れてきたのだ。 会場の中はかなりの人で、ごった返していた。 客は皆、店の責任者か、経営者、もしくは料理人たちだ。 シムは時々、見知った顔があると挨拶をしていた。 二人は各コーナーを周って、ワインを少しづつ飲んでみた。 「これは?どう思う?」 シムが差し出したグラスからは微かに青臭い香りがした。 「植物系だ」 「こういうのはフルーティーって言うんだ」 「よく分からないな」 レイフはあまりアルコールを飲まない。 酒は強い方だが、美味しいとあまり思わないのだ。 「こういうのが好きな奴もいるんだ」 レイフは、店で出すワインより、マックスの好きそうなワインを探していた。 時間が間に合えばレストランまで持って行ってやろう…と、思いついたのだ。 店が持ち込みを許してくれれば、の、話だ。 デザートに合うワインがいい。 シムが遠くにいる、白髪混じりの紳士を指差した。 「ガスパール・ブルレックだ」 以前もこの会場で挨拶をしたことがある。 ブルレックのオーナーだ。 シムがガスパールに近づいて行った。 「こんばんは」 「やぁ、バンバーさん、シュレンジャーさん、」 ガスパールは品のいい笑顔で、親しげに両手を軽く広げた。 「何かお気に召したワインはありましたか?」 「いえ、まださっき来たばかりなので…」 シムが笑った。 「あぁ、そうですか。私はもうすっかり堪能しました。イタリアワインのコーナーはあちらにありましたよ。今回は変わったものが揃えてありました」 シムが微笑んだ。 「そうですか」 微笑むことがあまり得意でないレイフの代わりに、こういう時にはレイフの楯になってくれる。 が、今日は違った。 「今日…」 そう切り出したレイフを、シムが振り向いた。何を言い出すのかという顔つきだ。
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