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3
ふわふわとぼんやり明るい空間をさまよっていた。
学校に向かわねばと思い、周りを見回す。誰かがいる気配もなくて、僕は寂しくなった。
するとうさぎ耳のお姉さんがこちらに飛んでくるのが見えた。どう見てもうさぎにしか見えなかったが、僕はそれがお姉さんだと確信していた。
うさぎ耳のお姉さんが喋り始めた。
「少年よ。お前はやはり文明のある世界には戻れない」
「どうして戻れないのだろう。みんなはどこに行ったの?」
「みんなは元の世界に戻った。白雪姫は王子様のキスで目を覚ますだろうし、犬はおじいさんと野を駆け回るだろう。継母と二人の姉は相変わらず意地悪だ。かぐや姫は月に帰り、天狗は天空を自由に飛行する」
「そして僕は小学校に行く。お姉さんのせいで大遅刻だ。成績が下がってしまうよ」
「成績よりも大切なものはないのか」
「僕は小学生なんだ。良い成績を取るのはギムなんだ」
「もっとふざけて、遊ぶことも小学生のギムだ。そんなんだから友達もできないんだ」
「友達なんていらないよ。みんなと一緒にいることだけが幸せとは限らない」
「不思議の国でみんなと仲良くなれていたじゃないか。お前は輝いていたぞ」
「シロは僕に学校に行って欲しいの?欲しくないの?」
「シロとは誰だ」
「お姉さんは一昨日死んじゃった学校のうさぎ小屋のシロだよね。それくらいわかるよ」
白うさぎは耳をピンと立てた。だんだんお姉さんの声は聞き取りにくくなっている。
「友達がいなくても僕は学校に行くよ」
「勝手にしろ。私の手作りのケーキも食べずに。ぷんすか」
「勝手にさせてもらう」
シロはどっかに行ってしまった。
元の通学路に僕は戻った。あっさり戻りすぎたので僕はあっさり今までのは夢だったのだと納得した。
お日様が真上に登っていた。妄想たくましい僕は数時間も夢を見ていたことになる。
手元の、壊れたメガネに目を落とす。
不思議の国が消えたように、僕の近視と乱視も消えていた。
文明の下に僕は戻った。成績はガタ落ちのはずだ。きっと。
とりあえず校庭の隅の、シロのお墓に水をかけてあげようと思い、僕は歩き出した。
完
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