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「毒リンゴによって味覚が麻痺してしまったワタクシは文明の下で暮らしていけないので小人さんたちにお家を追い出されてしまったのです。あのばばあ、許すまじ」
目の前の酔っ払った女の人がぐちぐち言っていた。ドレスを着て頭の上に赤いリボンをつけているのがわかる。彼女は自分を白雪姫、と言っていた。
『パーティ』には『文明の下』から追い出された人物たちが集まっていた。
不思議の国は変な倉庫の中だった。倉庫は果てし無く広く、壁や天井は灰色で、永遠に出ることは不可能に思えた。視力がとんでもないことになっているので訳がわからないのだ。
「花咲か爺さんに出てくる犬です。嗅覚麻痺したので、おじいさんに追い出されました。ここ掘れワンワンもできなくて。これからどうすればいいのでしょ」
そう言いながらすり寄ってくる犬。話している。周りを見回したけど、他の誰かが言っているわけではなさそうだ。
ツッコミどころは捨てるほどある。売り出して大金持ちになって、不思議の国の王様になろうかな。いや、そんな人生やだ。
学校があることを思い出して、出口を探しに出かけた。
竹と一緒に割られてしまい、感覚がなくなっちゃったかぐや姫。鳥に目を突かれて盲目になっちゃってシンデレラを探す継母と二人のお姉さん。『文明の下』が嫌になってしまい、亡命してきた天狗。そんな人たちと出会う旅路。
一時間くらい歩いてようやく扉を見つけた。文明、と大きく書いてある。ハートマークもついている。
「少年。学校に行く気か。それよりここでケーキを食べないか?私の手作りだぞ」
ウサギ耳のお姉さんが話しかけてきた。僕はそれをガン無視して扉に手をかける。
開かなかった。予想はしていたけど。
「ワタクシが開けてあげましょう。その間君は毒リンゴを食べていればいいわ。ほら、この椅子におかけになって」
僕を殺そうとする白雪姫もガン無視する。
ふつふつと怒りがこみ上げてきた。どうしてメガネが壊れただけでこんな目に合わなくてはいけないんだ。僕はまだ九歳だというのに。理不尽だ。不愉快だ。僕は文明の下で暮らしていたい。
僕は口をぱっくりと開けた。
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