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「ありがとうございました。修理や微調整などありましたら、いつでもお越しください」  出来上がったメガネをかけた客を祐一郎が送り出す。  いつもこの瞬間、祐一郎はとても寂しい気持ちになる。しかも今日送り出したのは、祐一郎のお気に入りだったメガネ、寂しさもひとしおだ。 「――やっぱり、あのメガネは最高だった」  客の背中を見送りながら、あのお気に入りのメガネとともに店内で過ごした日々を振り返る。  ディスプレイ棚に並ぶ数あるメガネの中でも、あのメガネは祐一郎にはひときわ輝いて見えていた。  美しいだけではない、どこか知的な雰囲気さえ感じさせる凛とした佇まい……。  祐一郎の目頭が熱くなる。 (接客業なのに、客に対してつい感情的になってしまった自分をあのメガネは戒めてくれた)  あの時、あのメガネと目が“合わな”ければ、祐一郎はお客様に対してとても失礼な態度をとり続けてしまうところだったのだ。   「メガネに教えられるなんて、俺もまだまだだな」  祐一郎はそうひとり呟くと、今日送り出したあのメガネが微調整に来る日へ想いをはせた。
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