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「お待たせいたしました。こちらのメガネでお間違いないでしょうか?」  そう言って、根岸祐一郎(ねぎしゆういちろう)はメガネケースを開けて出来上がったばかりのメガネを取り出した。 「はい。わあ、やっぱりこのフレームにしてよかった」 「ありがとうございます。では耳の掛りを調節いたしますね」  祐一郎が慣れた手つきで耳への掛具合を調節する。  メガネはそれをかけた人にとって体の一部ともいえる存在だ。あくまで優しく丁寧に取り扱わなければならない。 (――美しい。このレンズの曲線のエレガントさをより引き立てるリムのデザイン、そしてピンクゴールドの上品な色使い。シンプルでありながら思わず目を惹く美しさ……本当に素敵だ)  祐一郎はうっとりとしながらメガネのテンプルに沿ってすっと人差し指を滑らせた。  指に伝わるチタンの冷たい感触に、祐一郎の背中がぞくりと震える。 (ああ、いけない。つい夢中になってしまった)  雑念を追い払うように頭を軽く振り、目の前の客へ笑顔を向ける。 「申し訳ありません、お待たせしております。一度、合わせてみましょうか」 「あ……は、はい」  なぜか頬を染めている客の目元へメガネをあてがい、耳の掛り具合を確認する。 「少し、顔を上げてもらっても?」  祐一郎がうつむく客の顎へ指を添えた。  そのままくいと顔を上げられた彼女の頬はさっきよりも明らかに赤く染まっている。だが、祐一郎はそんな彼女の反応へわずかに眉をひそめた。 「目を開けてください」 「え……」 「目を閉じていると調節が上手くできません」  なぜか突然冷たくなった祐一郎の声に、彼女はやや戸惑いながらもうっすらと目を開けた。彼女と祐一郎の目が合う。 (全く。きちんと目を開けなければリムの中央に目が収まっているのかどうかが分かりにくいじゃないか。せっかく素敵なメガネなのにかける本人がそれを分かっていないなんて、宝の持ち腐れだ)  心の中で舌打ちをしつつ、顔に接客スマイルを貼りつける。 「どこかおかしなところはないでしょうか?」 「はい」 (当然だ。このメガネは店内でも一、二を争う私のお気に入り、おかしなところなんてあるわけがない) 「ちょっと失礼しますね」
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