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さらに微調整をするため、祐一郎は彼女の正面へ回り目線を合わせた。
レンズの底辺に指をかけ、フロントが真っすぐ水平になるようにメガネ全体を軽く持ち上げる。
「あ、失礼」
祐一郎の指先がうっかり彼女のこめかみに触れてしまった。
大丈夫ですと言いながら恥ずかしそうに目線を下げる彼女に対して、祐一郎は心の中で本日二度目の舌打ちをした。
(顔を上げろ、前を向けと言ってるだろうが。メガネに申し訳ないと思わないのか?)
メガネが好きで、常にメガネと接していたくて祐一郎は今の仕事に就いた。
全国展開のチェーン店でメガネの種類が豊富だということでこのメガネ店を選んだわけだが、祐一郎の選択は正しかった。
一日中様々なタイプのメガネに囲まれて過ごすことができるし、誰にも遠慮することなくお気に入りのメガネに触れることができる。
まさに天職。
けれど、仕事をしていく上でどうしても嫌で許せないことはある。
「顔を、上げてもらっていいでしょうか?」
「え」
「メガネの微調整をしたいので正面を向いてもらえますか?」
「あ、はい。すみません」
メガネの素晴らしさを分かっていない彼女に対して、つい祐一郎の態度が素っ気ないものになってしまう。
だが、彼女が正面を向いたとき、彼女のかけたメガネと祐一郎の目が“合い”、祐一郎はハッと我に返った。
「あの?」
突然動きを止めた祐一郎へ彼女が怪訝そうに声をかける。
「あ……す、すみません。私としたことがお客様に失礼な口をきいてしまいました」
「いえ、そんな。大丈夫です、気にしてないですから」
「申し訳ありません」
祐一郎は彼女へ謝罪をすると、今度は心を込めてメガネの微調整を続けた。
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