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時刻は午前七時四十分。お店のドアをそっと押し開ける。
「おはようございまーす」
カラン、カランとドア上の小さな鐘が申し訳程度に鳴った。
ふわり。
バターの香ばしい匂いが、波となって押し寄せてくる。
目の前に広がる、よく焼けた小麦色。
顔も自然にほころぶというものだ。
クリーム色のトレイとトングをそれぞれ手に持つ。トングをカチカチするのも忘れない。
ちょうど、奥の焼き場で、新たなパンが焼き上げられたところのようだ。窯から取り出された板に整然と並ぶ、ころんと丸いフォルム。てっぺんに、ちらりと見える赤色。
「あ、あれは!」
胸がときめく。
私の大好物、十和田家における通称”ホノカパン”こと、トマトカレーパン!
「ふふふふふ」
あんなにたくさんのホノカパンを食べられたら、その日は一日中しあわせであること、間違いなしだ。
おっといけない。はやく今日のお目当てを手に入れなくては。
「いらっしゃいませ」とパン屋の奥さんが売り場に顔をのぞかせる。バターロールを思い起こさせる声に、私は振り向いた。
ゆるみきった顔のまま、にへらと笑う。しかたない。あんなにいっぱいのホノカパンを見てしまったんだもの。
「おはようです、しおりさーん」
「今日はホノカちゃんが来てくれたの。トマトカレーパン、焼きたてのあげるからね」
「わああああ! ありがとうございますです!」
十和田家では、パン屋におつかいに行った際、好きなパンを一つだけ買ってもいいというルールがある。私は当然、ホノカパン一択。
奥さんは、くるりと焼き場に戻っていった。
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