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北風が、家々の戸を荒々しく打ち鳴らした。窓ががたがた震え、冷たい息吹がわずかな隙間から部屋に忍び込む。
祖母に抱かれた少年の頬には赤みが差している。ぶるりと肩を震わせた彼の、その柔らかな絹糸のような茶色の髪を、しわが刻まれ、節くれだった手が撫ぜた。
「寒いかい。そうさね、ここんとこ、急に寒くなったからね」
少年はもぞもぞと身体を動かし、囲炉裏の火に手をかざした。
「お日様もあんまり照らなくなった。ぼくたちは死んじゃうの?」
「いいや、死なないさ」
何枚もの古びたショールにくるまれた婆は、そう言いながら、炉の灰をかいて火を大きくする。
「今年も女王がやってきたんだよ。冬の女王がね」
「女王?」
頭をめぐらせて見上げた少年の、青い目をのぞきこんで、婆はしわくちゃの顔をさらにしわくちゃにして笑った。
「そうさ。ほうら、お前にも聞こえるだろう?」
しいっと婆は口元に人差し指を立てた。少年はそっと目を閉じて、耳をすませる。
それは、家が寒さに震える外から聞こえてきた。
「女王だ! 女王がいらっしゃるぞ!」
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