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「理由は、ない」じゃ駄目なのか?
だけど、そう言っても誰も納得しなかったのが現実だ。
「何故?」
心地よい5月の潮風に吸い込まれてしまいそうなほどに細く小さな声で、大輝は、自分に問いかけるように呟いた。
何故?
大輝のその問いは、水平線の方から飽くことなく押し寄せる波のように繰り返し大輝に迫ってくる。その答えは、どの教科の教科書や参考書にも載っていない。
そうと知ると、大輝の心底の窪みには、塩気をたっぷり含んだ海水が、泡立って渦を巻いてどんどん溜まっていく。海水に満ちた浅い窪みに、大輝は足をとられて溺れてしまうそうだった。
胸元辺りに鉛のような重さを感じて大輝は思わず右手でそこを押さえた。
態勢を少し崩したその時に、防波堤の上に落ちた自分の影の上に置いたカンバスが視界に入った。
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