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中学の美術の時間にあてがわれた古いカンバスブックだ。
砂色の表紙は少し汚れているが、大輝がほとんど絵など描かなかったために、まだ十分過ぎるほどに余白はあった。画用紙と違い、表面がでこぼことしている本格的なカンバスは色鉛筆で描くには不向きだったが、大輝は気にせず色鉛筆を使っている。
真っ白いカンバスの上には、大輝が黒の色鉛筆でスケッチした犬のスケッチがあった。
正確に言えば、未完成の犬のスケッチだった。
カンバスに描かれた犬は、ちんまりといい子にお座りをしている。後ろ脚も前足もきっちりと揃えて座っている。首輪もしている。だけど、その上がない。首から上は真っ白だ。
顏のない犬のスケッチは、大輝のカンバスブックに溜まっていった。
思い出せない。
大輝は砂浜をみつめる。
幼い頃、父と母と、そして犬のチビと一緒にこの砂浜へ遊びに来た思い出がある。
ちょうど十年ほど前のことだ。
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