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ペコちゃんのイラストが笑いかけるパッケージ。
それを見る度、私はあの時のことを思い出す。
雪がひらひらと風に乗る、そんな冬の日のことだった。暖房がきいた教室の中は暖かく、ほどよい暖気は睡魔を呼ぶ。
教室の自分の席で、君はシャープペン片手に机に突っ伏していた。開かれたノートには途中で途切れた文章が捨て置かれている。
私はぼんやりと君を見つめてから、時計に目をやった。下校までは後三十分ある。その前には起きるだろう。
近寄って、何の勉強をしていたのかとのぞきこむ。英語の参考書と辞書が、机の上に重ねて置かれていた。授業中の様子からも英語が苦手だとは思っていたけれど、頑張っているものだ。
私は三十秒考えて、肩にかけていたスクールバッグからルーズリーフを一枚取り出した。次のテストの要点をまとめて書いた紙切れ一枚。
英語は得意な方だし、何となく出題される問題の予想もつく。それをひらりとノートの上に置き、私は静かに微笑んだ。
踵を返し、そっと教室の外へ出る。廊下では、ひんやりとした冷気が私に絡みついてきた。身を震わせながら小さく呟く。
「頑張ってね、テスト」
ドアの窓から見ても、起きた様子はない。そうして帰った翌日のこと。
朝、教室に入った私は自分の机の上に何か小さなものが置いてあるのを見た。紙で包まれたそれをつまみ上げる。
少女のイラストが描かれた包み紙をほどけば、現れたのは雪のような色をしたキャンディ。
「ミルキー……?」
礼のつもりだろうか。甘いものが好きな君のことを思い出して、私はほっこりと微笑む。
濃く甘く、溶けるような飴の味。
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