1人が本棚に入れています
本棚に追加
「今日も日差しが強いですわねぇ」
すみ江は隣で杖をつきながら歩く文雄に声を掛けた。
「ここはどこじゃったかなぁ」
毎日一緒に散歩する畦道。
「ほらあなた、今日も向日葵が綺麗な色してますよ」
昨日の事も思い出せない夫に優しく話し掛ける。
「ほぉかいのぉー」
妻の指差す方向を見て、
「なんじゃー、よく見えんのぉ」
何度も何度も目を擦っている。
「ほらあなた、ここに眼鏡がありますよ」
夫の頭に掛けてあった度の入った老眼鏡を、優しく降ろして目の位置へと持ってくる。
「おぉー、こんなところに眼鏡があったのか。
そういえば、すみ江さんもよく頭の上で髪留め代わりに眼鏡を掛けて『眼鏡がない眼鏡がない』なんて言っておったのぉ」
50年前の記憶を話しながら向日葵を見ている。
最初のコメントを投稿しよう!