グラスの向こうの君

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「今日も日差しが強いですわねぇ」 すみ江は隣で杖をつきながら歩く文雄に声を掛けた。 「ここはどこじゃったかなぁ」 毎日一緒に散歩する畦道。 「ほらあなた、今日も向日葵が綺麗な色してますよ」 昨日の事も思い出せない夫に優しく話し掛ける。 「ほぉかいのぉー」 妻の指差す方向を見て、 「なんじゃー、よく見えんのぉ」 何度も何度も目を擦っている。 「ほらあなた、ここに眼鏡がありますよ」 夫の頭に掛けてあった度の入った老眼鏡を、優しく降ろして目の位置へと持ってくる。 「おぉー、こんなところに眼鏡があったのか。 そういえば、すみ江さんもよく頭の上で髪留め代わりに眼鏡を掛けて『眼鏡がない眼鏡がない』なんて言っておったのぉ」 50年前の記憶を話しながら向日葵を見ている。
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