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六、契約
白を基調とした広い謁見の間。
国主が玉座からそれを見下ろしていた。
それもまた、檻の中から国主を見つめ返していた。
国主の横に侍る国主の妻が目を細める。
「穢らわしい……。」
聞かせるようにか、大きめの声で呟かれた侮蔑。
囚われた悪魔は悪意に晒されていても感情の伺えない黄金の瞳で彼らを見つめるだけ。
悪魔は、囚われてより一度たりとも言葉を発していなかった。
無機質な黄金の瞳で一瞥するのみだった。
それに恐れた人間はより一層悪意を囁く。
そうして悪意は増幅し。魔と冠された彼らよりも黒くなっていく。
「最期にもう一度聞こう、悪魔。」
玉座の階段下に立つ国主の息子がかつ、かつ、靴音を響かせながら檻に歩み寄る。
「我が国に仕えるか。」
悪魔は黄金の瞳の中にちろちろ燃える焔を宿して、獰猛に笑う。
「僕を納得させるものを用意したのかな?」
その問いに、国主の息子は思い切り愉しげに口の端を釣り上げる。
「嗚呼、ああ、用意したとも。お前の納得する対価をな。」
「失礼致します。」
悪魔は、ミルファーレンは耳を疑った。
けれど、心のどこかでそれをほんの少し、予想していた。
いや違う。
期待して、いた。
「アリスエルダ……。」
吐息のように小さくミルファーレンは彼女を呼んだ。
彼女は無邪気ささえ感じさせる顔で笑う。
それは何も知らない無知なアリスエルダの頃と同じ笑顔で。
「どうだ?」
そんな風に笑う国主の息子の悪意など最早眼中になかった。
「嗚呼、可愛そうなアリスエルダ。君はどうして、ここにいるんだい。」
「ねえ、ちっぽけな大悪魔ミルファーレン。もう一度、わたしと契約をしてくれる?」
問いかけはほぼ同時。
それでも二人はしっかりとお互いの問いを聞き取った。
「わたしはね、ミルファーレン。貴方と契約を結ぶためにここにいるの。」
「アリスエルダ、それは、……。」
「自分の意思だよ。」
終わりたくなかったから。
あの幸せな日々をまた享受したかったから。
だからアリスエルダはミルファーレンとの契約を望む。
「対価に、わたしのすべてをあげる。それでも、だめ?」
ミルファーレンと目線を合わせるために檻の前でしゃがみこむアリスエルダ。
ミルファーレンは耳をピンと立て、アリスエルダの目を戸惑いながら見つめる。
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