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二、少女と悪魔
――アリス。そこに行ってはいけないよ。森の奥に、恐ろしい悪魔がいるから。
――嗚呼アリス、あそこへ行けば悪魔がお前を食ってしまうだろう!頭から、ぺろりと、丸呑みにして!
――だから、アリス。
――森には、行ってはいけないよ。
代わる代わる、大人たちがアリスエルダの頭を撫でて、恐ろしい顔をして言い含める。
森には恐ろしい悪魔が出るから行ってはいけない、と。
アリスエルダはいつも通りぼんやりとした顔で、こくりとちいさな頭を動かしたけれど、次の日には、森へ足を踏み入れていた。
理由は一つ。今日のご飯のためだ。
アリスエルダは、親なしの幼子だ。
まだ10を数えたばかりの幼子が、しかも親なしが、毎日お腹いっぱい食べるなんてことはありはしない。
村の人々は優しいけれど、自己犠牲はしなかった。働きに対する正当な対価を支払うだけだった。
けれど、アリスエルダはもう何日もものを口にしていなかった。
最近食料が少ないからだ。
来るはずの遠い街の騎士団が、物資を運んでくる彼らが、パタリと来なくなってしまった。
原因はわからない。
こんな辺境の雪に閉ざされた村に訪れる人はいなかった。
元々食料が少ない村だ。
余所者に与えられるほど余裕はなかった。
だからアリスエルダは、食べ物を求めている。
森ならば、きっと木の実や獣がいるだろう。
おさなくちいさなアリスエルダに獣が捕らえられる筈もないけれど、逆に食べられてしまう可能性すらあるけれど、木の実なら採れるだろうと思っていた。
しかし森は厳しい場所である。
簡単には木の実は見つからないし、あっても高い位置につけられていたり、獣が食っていたりとアリスエルダには採れないものばかりだった。
アリスエルダは困り果てていた。
このままでは、今日も何も食べれない、と。
真っ赤に悴んだ剥き出しの手足が、枝や石ころに傷をつけられてズキズキと痛む。
アリスエルダは痛みも寒さもそれほど気にしてはいなかったけれど、空腹は気にしていた。
嗚呼、どうすればいいのだろう?
アリスエルダはとぼとぼ真白い雪の上を歩く。
アリスエルダの足はもう感覚さえなかった。
はあ、吐いた溜息が白い煙のようにふらふらと上へ昇っていく。
もういっそのこと、お空の上の『我らが父なるお方』の元へ旅立とうか、なんてことを思う。
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