六、契約

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「ミルファーレン、なんだよね……人間になれたの?」 「うん、契約者に合わせて同じ種族の形を取れるようになれるんだ。まあ悪魔は人間としか契約しないから皆ひとになるけど。」 優しげに微笑みながら説明してくれるが、檻はどうしたのだろうか。 先ほど何か割れる音が聞こえた気がしたけれど、まさか。 ……いやいや、まさか……あり得るかもしれない。 「ミルファーレン、檻…割った?」 「あのままだと出られないからね。」 確かあれは人外捕獲用に造られた魔法大国の遺物だった気がする。 製法はもう失われているからかなり貴重なもので、並大抵の悪魔では破ることはできないと言われていた。 「ミルファーレンってすごく強い悪魔だったり……?」 ミルファーレンは少し照れ気味に笑う。 「昔は全知全能の大悪魔とか大層な名で呼ばれていたよ。」 流石に本当に全知全能ではないだろうが、そう形容されるほど隔絶した力を持っていたということか。 アリスエルダは眩暈を覚えて額を抑えた。 「すごいひとだったんだね。」 「昔のことだよ。」 恥ずかしいのか、話題を終わらせようとするミルファーレン。 よくよく見てみれば耳の先が少し赤い。 それが妙に可愛らしくてアリスエルダは笑いながらミルファーレンに抱きついた。 「ああ、そうだ、ミルファーレン!」 「うん?」 心底幸せそうにアリスエルダは笑む。 暖かい気持ちで胸が一杯で苦しいくらいに。 「わたしの最期はわらっていてね。」 ミルファーレンは目を瞠った。 最期。それは一体何年後のことなのだろう。 寿命はまだ何十年と先だろうが、悪魔の契約者ならば色々と危険なことに駆り出されるのは想像に難くない。 笑えるだろうか。自分は、彼女がいなくなっても。 わからない、彼女が死ぬところなんて想像したくない。 けれど、それも彼女の望みと言うのなら。 「わかった。」 ミルファーレンが断ることなんて、できやしないのだ。 ああ、もうこれ以上ないしあわせだ。 そしてアリスエルダはちいさく呟いた。 あいしてるよ、ミルファーレン。
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