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集中的に僕が僕じゃなくなる。
深い紺の空に浮かぶ鼠色の雲から、次々と落ちてくる白い者たちは、ぽかんと開けた口の中にも着地。
あたたかな舌の上で溶けて、僕の一部となる。
まつ毛の上にも、ちゃっかりと乗る。
まばたきするとじんわりととけて、滴となり、僕の涙になった。
今はそんなに泣きたい気分じゃないから、手のひらを目の上にかかげた。
それでも指の間からすりぬけては、頬におちる雪達。
一瞬の冷たさを放って、すぐに消えてしまい、儚さを教えてくれる。
雲の切れ間から、妙に明るい光が見えると思ったら、それは、濃紺の闇にぽっかりと空いた月。
僕は、その白く輝く穴に、人差し指を入れてみせる。
それをくるくると回すと、月は光をしぶきのように周りに散らした。
光が滴となり、雪と混ざりあう。
僕が寝転んでいる大地に、月の滴と混ざりあった雪達が、次々に着地していく。
空を見上げていた顔を横にして、着地していく雪達の様子を眺めた。
ちゃりん、ちゃりんと、鈴が弾けるような音が聞こえる。
月の滴と雪が握手しているのだ。
いたずらがしたくなり、そんな雪達を中指でぽんと弾くと、それらは僕の指の熱で一瞬にして消えてしまう。
触れることなどできない。
再び夜空に目を移す。
それでもとめどなく、雪はゆっくり、静かに、着実に僕に降り積もる。
熱で消えてしまうのをわかっているのに、それでも。
僕が、僕であることを、忘れさせるため。
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