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山城さんの頬には
大粒の涙が溢れ出ていたけど、
それを拭おうともせず、話は続く。
「アナタのお父さんはね、
たくさんの人を救ったの。
きっと傍目から見たらバカだと思うよね。
何の得にもならないし、
自分の家庭を犠牲にしてまで、
そんなことして何になるって。
でもお父さんはね、笑いながら言ってた。
『やらない善より、やる偽善だ』って。
本当に変わってて、
本当に素敵な人だった。
意固地になってた私の代わりに、
父親に連絡を取って、学費も出させて。
お陰で無事に高校も卒業出来たの。
あれから何度も
お宅に謝りに行こうとしたけど、
アナタのお父さんに止められたんだ。
お母さんも、子供達も、
自分を信じようとしていないって。
きっと何を言っても無駄だからって」
山城さんは握った自分の手に力を込め、
親指の爪が人差し指に食い込んでいた。
それを見ながら、俺は呟く。
「あ…あ、そっかあ…」
あのとき父は、
一度も言い訳をしなかった。
どんなに母が責めても。
仲裁に入ろうとした伯父が罵っても。
父は、哀しそうな顔をして、
ただ俺たちの顔を、
眺めていただけだった…。
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