[芹香編] 第4章 西村side

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ずずず…と鼻をすすると、 真横からティッシュが差し出された。 「どうぞ使ってくださいな」 「す、すんません」 それで目を拭き、顔を上げて驚く。 「は、華子?!」 「いかにも。私が華子です」 「なんでココに??」 「山城さんに電話して、 密会場所を教えて貰ったの」 泣き顔を見られたことが恥ずかしくて、 思わず俺は目を背ける。 するといきなり自分の胸に俺を抱き締め、 華子はこう呟くのだ。 「もおお、母性本能くすぐられちゃう。 お兄ちゃん、可愛い過ぎるよお」 「あ、あほかッ。 俺はお前よりも、全然オトナだっつうの」 「意地を張らないでよ。ほら、よしよし」 「やめろ、誰かに見られたらどうする」 「私たち以外、お客さんいないよー」 「ほんとだ。って、それでもやめろ」 ギャアギャア騒ぎながら、 いつしか俺は笑っていた。 …ああ、そうか。 あのとき家族が父を信じていたら、 別居なんかしなかったかもしれなくて。 規則正しい生活で、ストレスも無く、 あんなふうに死ななかったかもしれない。 それはつまり、山城さんの未来も変え、 俺と華子も今、こうしていないはずで。 父のいない未来は、悲しみと喜びを 半分ずつ用意してくれていたんだ…。
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