早起きは三文の得

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 「早起きは三文の得」とは、よく言ったものだと思う。  まだ暗いうちなら、空には星が輝いている。もう少し時が立てば、空の色は薄くなり、だんだんと白み始めていく。そうして目にする朝露は、青い草の葉を飾っている。  それらを見るだけでも、私には三文以上の得だ。三文とは、現代のお金で換算すると百円ほどらしい。それに比べたら、毎朝見るこの景色は、私の中でかなりの値打ち物となっている。  そのうえ、早起きにはもうひとついいことがある。しんとした、この景色より、もっともっと素晴らしいこと。  それはたった一つ。日が昇る前の時間は、とにかく、静かだ。  起きている人間がいたり、車の音はするけれど、太陽が東の山の上まで昇った時に比べれば、随分静かなものだ。鳥の声はおろか、虫の声さえも聞こえない。  その静けさに浸るのが私の日課であり、大好きな、大切な時間だった。  公園のベンチに腰掛けて静かに目を閉じ、耳を澄ませる。そうすると、様々な音が聞こえてくる。  風が吹き渡る音、人の足音、車がゆっくりと走り抜ける音、コンビニのチャイム。  音を立てるけれど、それらは騒がしくない。早朝の空気は、それらさえも静かなものに変えてしまう。  やがて閉じたまぶたの向こうに、私は光を感じる。鳥たちが鳴き始める。車が少しだけ多くなる。人の気配が辺りを満たす。  そうしてようやく、私は目を開く。その時にはもう、人々が動き出す時間帯だ。私が愛する静けさは、翌朝までやってこない。  隣に置いておいたスクールバッグを静かにつかみ、私はおもむろに立ち上がった。遠方の学校に通う友人が、自転車をこいでいくのが見える。角を曲がって姿を消す友人を見送ってから、小さく微笑んだ。 「さて、行きますかー」  そうして、今日もまた私の一日が始まる。
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