どんぐり長屋で殺人――!

2/16
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
徳川吉宗が、まだ存命だった頃――   広い竹やぶの傍に、どんぐり長屋という貧乏長屋があった。 ある曇った日の、巳の刻(みのこく=午前十時頃)のこと―― 突然の女の悲鳴が、静寂を引きさいた。   「おいおい!」 「なんでぃ……。うるせーな……」   長屋の端っこのアバラ屋で、まだ寝ていた玄介(げんすけ)という岡っ引きが目を覚ました。   「おいおい、眼鏡の玄さん!」   大家のじいさんが、その戸をドンドン叩いて叫んでいる。   玄介は、黒ふちの眼鏡をかけて、のそのそ戸を開け、 「なんですか、いったい。そうぞうしいなぁ……」   「寝てる場合じゃないよ! 大工の熊吉(くまきち)が殺されたんだ!」   「なんだってー!」   玄介は大家を押し倒すようにして表に出ると、現場に走った。  
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!