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「その悲鳴で、俺も飛び出して、戸を開けようとしたんだが、心張り棒が利いてるせいか、どうしても開かなかったんだ。で、仕方なく蹴破ったのさ」
長屋一、荒っぽい虎五郎(とらごろう)が言った。
玄介が見ると、確かに心張り棒がころがっていた。
玄介は、すぐに熊吉のそばへ行ってみた。
他の連中も、それに続いた。
玄介は、熊吉の鼻先に手を当てて、
「たしかに死んでるな……」
さらに注目したのは、熊吉の首の後ろにある小さな傷だった。
「熊吉が寝ようとした時に、誰かが何か鋭い物で、この急所を刺した。だから死んじまったんだな……」
「こんな、真面目そうな熊吉を、誰が殺したんだろう……」
中年女の、マヤが涙声で言った。
玄介は、ふと、すぐ前の窓の障子を開けようとした。
すると希美が、
「そこは、少し前から開かないんですよ。先日の地震からです……」
「じゃ、いった、どうやって犯人は……?」
思案しながら、ふと玄介が見ると、窓の障子の下部に、小さな穴が開いていた。
そして、少し赤く染まっていた。
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