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「1度帰って、支度してからでも良いかな?」
そう言って家に戻ってきたけれど
(どうしよう。)
まさか、ふたりで出掛けるなんてことになると思っていなかった。
(男の子と二人きりなんて、緊張する。電車の中とかで何を話したら良いんだろう。。)
「嬉しくない訳じゃないんだけど、、」
そうポツリと思わず声に漏らしたとき、
「あれ、唯ちゃん帰ってたの。って、またどこか出掛けるの?」
クローゼットから服を取り出していると、母が入ってきた。
「もしかしてデート?じゃあお洒落しなきゃ!」
部屋から追い出そうとしたのに、嬉しそうにはしゃぎ出したこの人を止めるのは、流石に良心が痛む。
就職先も決まらず、稼ぎも少ない娘に小言も言わずに家に置いてくれる両親。
その母がこんなにも嬉しそうにしているのは、久しぶりに見た気がする。
「ママ。その、あまり期待しないでね。別にデートに誘われたんじゃなくて、買い物に付き合ってほしいって言われただけだから。」
「はいはい、ほら、じっとしてなさい。」
そう言って、私の背中を押して鏡の前に座らせ、嬉しそうに巻き髪用のコテを使って、器用にくるくると巻き始めた。
46歳の母は、とてもお洒落だ。
父の事が今でも好きすぎて、お洒落には手を抜かない人で、私もいつかそれほど好きになれる人に出会いたいなと憧れるくらい。
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