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家族 #2
透析患者の発熱は、健常者のそれとは違う。
風邪かな、では済まされない。
免疫力が低い為、感染症を起こしやすい。
いち早く投薬などの措置をし、合併症を起こすリスクを回避しなければいけないのだ。
忍の言葉は、今朝のさり気ない会話をちゃんと覚え、気にかけていた、という証拠だった。
兄が、心配してくれていた、その事実だけで美羽の胸が一杯だった。
「美羽?」
「あ、ごめんなさい、してもらったわ。大丈夫でした。熱も……」
美羽は額に手を当ててみて答えた。
「今はないみたい……喉が少し痛いから……風邪かも……」
電話の向こうから、そうか、という声が聞こえた。
その声からは感情は窺えない。
いつもそうだった。
声からも……その表情からも……心や感情を知る事は出来なかった。
優しいのか、冷たいのかもわからない。
美羽は、たった今、小さな喜びを感じた心に、締め付けられるような大きな痛みを感じていた。
気付かれないよう小さく息をついた時。
「無理はするなよ。今日は早く休め」
甘く柔らかい声だった。
まるで耳元で囁かれたかのような吐息までも感じるような。
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