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「お前程の才能は埋もれさせる訳にはいかないんだよ。
もう少し貪欲になれ」
この大学は、他の医大とは決定的に違う部分があった。
それは、文科省の管轄下の学校ではない、という事。
某省庁の管轄下にあるこの医科大は、学生時代から一切の費用がかからない上に給料まで支払われるのだ。
それは同時に、卒業後の拘束を意味していた。
この医科大卒業生に課せられるのは、およそ5000万円という巨額の返済義務。
この額を全額返還するまでの奉公勤務医期間は約10年。
しかし稀に、このいわゆる返済金全額を無利子で貸す、あるいは肩代わりする、だからうちの病院に来ないか、という声がかかる医師が、いる。
忍が、それだった。
退官する教授、外来に来ていた開業予定の医師、等数人の医師に声を掛けられていた。
ここを出る事は、医師として新たなチャンスを掴む一歩、と考えられたのだが……。
黙ったままの忍に、一呼吸置いた佐野が聞いた。
「お前が一歩踏み出せないのは……妹さんのあの事故か?
あれは仕方のない事だったと聞いている」
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