遠い記憶

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‘仕方ない’  その言葉に忍の表情が変わった。 彼はゾクリとするような冷たい笑みを浮かべた。 端正な顔にその冷笑は見る者を黙らせ凍りつかせる程の迫力を秘める。 対峙する者に、部屋の気温が一気に下がったかのような錯覚さえ与える。 忍は微かに口の端を上げ、言った。 「誰がそんな言い方をなさったのか存じませんが、あんな事を、仕方ない、で済ますような医師はその資質すら疑いますね。 それから……僕は何かに左右される事などありませんよ。 僕は常に自分の考えの下に行動しいていますから」  佐野は、この氷点下のようになってしまった部屋の空気を感じながら、そうか……とだけ答えていた――。  
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