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美羽は、ピリッと痺れるような感触に、
「はい」
と答えるだけで精いっぱいだった。
突き放したり、優しくしたり――息が、苦しい……。
美羽の気持ちなど知ってか知らずか、彼女の返事を確認した忍は、じゃあ仕事に戻る、とあっさりと電話を切った。
耳に当てた携帯をゆっくりと離した美羽はそれを暫く眺めていた。
甘やかな声はまだ耳に残っている。
自分は何故、兄の一挙手一投足にこんなに一喜一憂するようになってしまったのだろう。
美羽と忍は年が離れているだけでなく、その間に篤と誠という兄がいる。
小さな頃から美羽の面倒を見、よく遊んだのはその二人だった。
忍と美羽は、年の差のせいもあり接点もなく、関わる機会は滅多になかった。
美羽にとって幼い頃から遠い存在だった忍とは、生きる道が交わる事など無く平行線のままいくのだろう――そう思っていた。
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